チェンジメーカーストーリー

【成功事例】育児ハラスメントに立ち向かった女性が、1万3,000人の励ましで会社と和解を勝ち取った話

こんにちは、Change.orgの武村です!
広報のかたわら、Change.orgで話題になったり、急に賛同者数を集めたキャンペーンを、成功までサポートする仕事もしています。

この「チェンジメーカーストーリー」は、私がサポートする中でみた、成功したキャンペーンの動きを紹介して、これからキャンペーンを発信する人やChange.orgを使う人に参考にしてもらおうというシリーズです。

今回は、2017年に最初に成功宣言があがったキャンペーンをご紹介します!

イオン100%子会社のクレアーズ日本(株)は育児ハラスメントをやめて、子育て中の母親を自宅近くの店舗で働かせてください!

育児しながら働いていたところ不当な扱いや降格を受けた女性に対し、その待遇を回復するよう求めたキャンペーンです。

この女性を支援している、労働組合プレカリアートユニオンの清水さんにお話を伺いました。

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キャンペーンをすすめてきた、プレカリアートユニオン執行委員長の清水直子さん

−−今回のキャンペーンを始めるまでの経緯を教えてください。キャンペーンを始める前に、まず労働問題として相談があったということですが。

若い女性向けの、高校生に大人気のアクセサリーの輸入販売を行っている株式会社クレアーズ日本という会社があります。イオンの100%子会社です。そこで19年以上バイヤー、買い付けのネットワーク作り、複数店舗の管理といった、責任のある立場で正社員として働いてこられたAさんという女性がいました。Aさんは出産後、お二人の小さいお子さんを育てながら働いていたところ、2014年の5月から、1年の間に3回に渡って降格処分を受け、年俸が568万円からおよそ半分になってしまいました

この3回の降格と減給の間に、立場は店舗を管理するマネージャー職から、店舗勤務の店長よりも下の立場になってしまった。さらに、自宅から1時間30分かかる店舗への勤務を命じられました。Aさんは2回目の降格処分をされた後に、管理職ユニオン*に相談に来られていたんですけど、組合費が高かったり、特色が違うということで、私たちプレカリアートユニオンに紹介されました。

*ユニオンとは:労働組合の別名。労働者は使用者(労働者を雇う会社側)に対して労働条件など様々な交渉を行うことができ、その交渉を行うため労働者で連帯して作る組織。日本では企業や産業ごとの組合が多いが、近年の非正規雇用の増加や様々なハラスメントに対応するため、違う会社同士の個人が加入できるものもたくさんあり、それらを「ユニオン」と呼ぶこともある。参考:wikipedia

1年の間に急に収入が下がってしまった上、シングルマザーのAさん。通常ならひとり親手当も受け取れる収入水準でしたが、降格前の前年度の年収で審査されるため、ひとり親手当も受け取れなかったそうです。

共働きの夫婦が保育園のお迎えなどをやりくりするのも大変なのに、シングルだと代わってくれる人もいない。職場が近くにない方が、シングルマザーとして正社員でフルタイムで働きながらお子さんを育てていくっていうのはものすごい困難で、子育てをする人への具体的な配慮とか制度とかがなければ、ほとんどの人が正社員として働き続けられない。非正規雇用で働くしかなくなってしまうわけです。Aさんの場合、年収が降格前から半減していた上、もし非正規になるとさらに半分くらいになってしまうんですね。もし退職を迫られていたら、おそらく再就職する時は、パートとか、非正規の仕事につくしかないだろうと。非正規職ではフルタイム以上働いても年収がそれまでよりずっと下がってしまうし、お子さんのお迎えなどがあると、フルタイムは難しいということになってしまいます。

こんな風に、「シングルマザーは貧困に陥ってしまう罠のようなルートがある」と清水さんは言います。このままでは子どもを2人も抱えながら生活が破綻寸前という非常に生活が困窮した状態だったため、まず会社を辞めずに生活を立て直し、そのあと降格の問題に取り組んでいきましょう、という方針を立てたそうです。

Aさんの給与水準は、法律の定める「最低生活費」よりも下回るレベルまで減給されていました。そこで生活保護で最低生活費との差額分を申請するなど福祉制度を活用し、会社を辞めずに生活の立て直しに着手(現在では労働問題が解決したため、制度の利用は終了)。その後、不当に下げられた賃金を戻してもらうための申し入れに取り組み始めました。

−−さて次にいよいよ、Change.orgも使いつつ会社側に降格の問題をぶつけていったわけですが、どんな風に交渉を進めていったのでしょうか?

まずは、降格と減給の根拠を明らかにしてほしい、と団体交渉*を行いました。ですが会社の方は「ルールですから」というような、会社側の主張だけを述べて根拠を述べない。団体交渉というのは、労働組合の申し入れには誠実に対応しなければならない義務があるので、労働委員会と言う、労使の裁判所のようなところに申し立てを行ったりしました。

*団体交渉とは:労働組合の代表が組合員に任されて使用者(会社側)と交渉すること。会社側は、労働組合の正当な交渉には応じなければならない。参考:wikipedia

それでもなかなか話し合いで解決する手段が見えず。このままでは裁判になったり、直接行動やキャンペーンなど、いろいろな宣伝行為をせざるを得ませんけど、それでもかまわないのですかと言ったら、できるものならやってみろと言わんばかりでした。じゃあやりますねということで、2015年11月に降格処分が違法・無効であるということで、差額分の賃金を支払うことで裁判を始めました。

ただ我々プレカリアートユニオンは、裁判をしたからといって、裁判任せにすることはないんです。

まず裁判だけで労働問題を解決しようとした場合、対応できるのは弁護士だけになるんですね。また、裁判で解決できるのは過去の問題になります。過去受けた損害の回復ということになるので、自分の今現在と、これからの労働条件を改善するといったことは、裁判だけではなかなかできないんです。

それと、裁判頼みになってしまうと、お金と力がある方が引き伸ばしができてしまうんです。仮に争ったら会社側が負けると分かっていても、わざと裁判をゆっくりゆっくりやって、ずっと争い続けている間に、お金も力もない労働者をひ日干しにしてやれ、バテるまで兵糧攻めにしてやれ、徹底的に嫌がらせをして疲弊させてやれ、というような対応が、(会社という)お金と力がある側ができてしまうんです

それを許さないために労働組合は、引き伸ばしをすればするほど会社側もダメージをうけますよという状態を作り出します。それが直接行動だったり、署名を送るキャンペーンであったり、その間団体交渉をしながらプレッシャーをかけたりといった活動になります。

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集会で決意を話すAさんとプレカリアートユニオンの組合員たち

 

直接行動というのは、意思決定者にイエスと言わせるため、意思決定者に影響を与えやすい相手や、ある意味での相手の弱点に向かって行動することです。今回のケースのように100%子会社で、この会社の代表者や管理職にあまり決定権がなかったり、もしくはどうしていいか分からないだけだったり、決められない状態だとしたら、むしろその親会社に向かってプレッシャーをかけていく

親会社はイオンですが、ここは女性が働きやすい会社として一定の基準も満たして、世間的な評価を得ているので、そこに働きかけました。「お宅の100%子会社で、しかも主に女性が買っているアクセサリーの会社で、顧客のほとんどが若い世代の女性で、働いている方も9割方が女性。そういう会社で、出産して子育てして、それでも働き続けようとする人がこんなに働きづらい環境にされて、いじめられて追い出されるようなことがあっていいんですか?」ということを、同意を得るために、得られるようなルートでアプローチをしていきました。

例えばイオンの店舗前で宣伝をしたりとか、イオンに申し入れをしたりとか、子会社がこういう育児ハラスメントをしているので是正してくださいと言ったり。もちろん、クレアーズの前でもやりました。そういういろんなプレッシャーを掛けて、裁判だけでは引き伸ばしをされてしまうところを、それを許さないような、イオンのブランドイメージに傷がつくとか、場合によっては売上が落ちる可能性もあるんですよ、という影響を与えてきました。

別の件だとアリさんマークの引越社のキャンペーン*では、すごく急激に売上が落ちているんですよ。それで、直接的な行動でプレッシャーをかけて、裁判も早く解決するようにする。そうすることで、裁判任せにしないで、早期の和解を目指すというのが、我々のユニオンの取ることができるアプローチです。

*清水さんたちプレカリアートユニオンでは、アリさんマークの引越社での問題にもChange.orgを使い取り組んでいる。

−−なるほど。裁判と他の様々なプレッシャーを掛ける行動を組み合わせていく訳ですね。その中でChange.orgを取り入れたことはどうよかったですか?

Change.orgのキャンペーンでも、クレアーズでアクセサリーを買ったことがある方や、イオンのお客さんとかイオンを知っているとか、できるだけ多くの皆さんにこの問題を知ってもらうためあえて「イオンさん」という言い方で書きました。あなたの子会社を指導してください、育児ハラスメント問題を解決してください、という訴えかけをしました。

この時にとても大変だったのは、降格・減給だけでなく、Aさんは家からわざわざ1時間30分もかかる店舗に通勤させられていたことです。シングルで、二人お子さんをお迎えに行かなければならない状態で、1時間30分もかかるところを毎日通勤しているわけです。これは、嫌がらせ以外の何物でもないと思うんですよ。朝も大変ですし、買い物もできないからお昼休みに夕飯の買い物をするしかない。さらに「4月になったらあなただけ短時間勤務の特別扱いではなくて、他の人達と同じように、店舗の開けとか締めとかそれにも対応した時間に働いてもらう」と脅かされていたんですね。これもものすごくAさんを不安にしていました。そういう危機感もあって、まず、仮に裁判が決着するとしても、せめて、家から1時間30分もかかるところに通勤させるのはやめようと。それは嫌がらせ以外の何物でもないじゃないかと。そこでとにかく、近くの店舗への異動だけはなんとか実現したいと、キャンペーンをはじめました。

ちょうど世の中でマタハラとか育児ハラスメントがある程度注目されてきたという時期でもありました。そこで、世間のみなさんに知っていただいて、共感を得て、お客さんの立場の方を巻き込みながら解決を図ろうと。そういう狙いもあって、「子育て中の母親を自宅近くの店舗で働かせてください!」ということをタイトルに入れました

すると、キャンペーン立ち上げから1ヶ月位で、異動は実現したんですよ。自宅から30分くらいの店舗に異動して。やればできるんじゃないかと。何だったんだ今までは?と思いました。ネットで拡散したことがプレッシャーになったんだと思いますし、親会社のイオンを巻き込んだのが良かったんだと思います。イオンは「くるみんマーク」をとっていて、女性が働きやすい、育児をしながら働きやすい会社だと盛んにアピールしています。イオンも従業員の大多数は女性なわけで、その方たちが会社で安心して働けないと、会社も困ってしまう。そういうこともあって、異動の対応は素早かった。

署名の集まり方の勢いも良くて、世間のみなさんの関心がすごく高かったように思います。1ヶ月以内で賛同者が1万名集まったくらいでした。しかも、すごく温かい応援のコメントや、励ましてくれるようなコメントの付いた署名がすごい勢いで集まって。それはAさん本人もとっても力づけられましたし、とにかく、関心が高いことに私達も驚きました。それを持ってイオンに出しに行った。それから間もなくですね、異動が決まったのは。それは本当に、皆さんに知っていただいて、共感の言葉を頂いたからだと思います。本当にありがたいと思います。

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賛同者から寄せられたコメントの一部

−−最初に提出したのが、キャンペーン開始から1ヶ月位?

そうですね、1ヶ月ちょっとくらいです。異動を命じられていた遠い店舗だと、6時間の時短勤務をしないとお迎えが間に合わなかったんです。ただでさえ降格して減給しているところ、今度は6時間の時短だから、単純に8分の6の収入になっていて、ますます大変だったんですね。そこを、近くの店舗に異動したので、時短が1時間ですむようになったし、お子さんと少しはゆっくり過ごせるようになった。これが、ご本人の体力的な負担とか、精神的にも、お子さんと向き合う時間ができ、すごく意義のあることだったなと思います。

提出したのは6月6日です。それで30分で通えるところに異動して、そこから裁判が続いていて、直接行動もしていました。通常、私達の組合の紛争の当事者だと、本人が会社の前で抗議行動をします。私たちは個人で集まって作る組合なので、抗議行動を助け合うの同じ会社とは限らず、他のいろんな職場で働いていて、助け合うと決めた仲間が一緒になって解決するというのが原則なんです。ただAさんの場合は、会社で働いていて、お子さんを急いで迎えに行って、お子さんの世話をするともう自分の時間もろくに無い。組合の交渉の書類を一緒に作ったりとか、打ち合わせをしたりとか、会社に直接行動したりすることが、なかなか本人ができない。できないことが辛いということが続いたので、工夫といっそうの助け合いが必要でした。

会社は降格処分は適切だと行って争うという感じだったので、ご自分が動けないならしょうがないので、できることろで他の仲間で助けながら、会社に対するプレッシャー、イオンに対するプレッシャーを地味に続けて。特にネット上のキャンペーンはどんどん続けた。

そうしたところ、裁判は手続きが少しずつ進んでいったところ、全体的に和解をしたらどうかという機運が盛り上がって、納得できる解決ができて、本人もやめることなく会社で働き続けることができるという風になりました

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キャンペーンを進めた清水さん(右)とChange.org武村

−−その後裁判で勝訴和解となりました。今後とる戦略は?

裁判は納得行く和解ができました。ただ団体交渉を誠実にやらないというのが、不誠実交渉という、労働組合法7条2号違反になるので、裁判とは別に東京都の労働委員会にも申し立てをしています。労働委員会の中で、せっかく裁判を和解したのであれば、組合とちゃんと協力しますとか、組合にこういう解決を提案しますとか、和解したらどうですか、と提案しました。なんとか話し合いの中で和解を目指せそうではあります。(※インタビュー実施後、東京都労働委員会でも和解に達しました)

せっかく裁判で和解して、Aさんも通勤30分程度のところで働き続けているので、あとは穏当に働き続けられるようにしたいです。いつまでも争いをしているように見せたいわけでもありませんので、早く労働委員会の方も早急に和解をして、Aさんも含めて会社全体で、会社の利益のためにも、出産子育てをしながら働いている方が安心して長く働ける環境を築く活動していくと思います。目的というか利害は一致していて、目指すゴールは一緒なので、会社のためにもみんなが安心して働ける環境を一緒に作っていきましょうと言いたいです。

それは改善を求めるとか、具体的な提案をするとか、現場で働いているから気づけるようなことを、組合を通して伝えて改善させていくということになると思います。おそらくは、強いプレッシャーをかけるという戦い方よりは、改善を求めるようになると思います。

 


いかがだったでしょうか?

私が印象的だったのは、「署名と一緒に寄せられた励ましのコメントに、Aさんがとっても勇気づけられていた」ということです。

ネットでクリックするだけの署名に何の効果があるんだろう?と感じることもあるかもしれませんが、これだけの数の共感や応援が集まっている、ということ自体が、苦境に立たされている人を大きく力づけ、立ち向かう勇気を与えるんですね!

これからも、子育てしながら働きやすい会社作りに取り組むAさんとプレカリアートユニオンを応援したいと思いました。

次回は、この1-2月に報道され話題となった、福島からの避難児童のいじめ認定を、横浜市教育委員会に求めたキャンペーンのインタビューをお送りします。

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Written by
Change.org
3月 15, 2017 10:00 am